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このTシャツ。
猫好きの羽理の気持ちを如実に物語るみたいに、胸元からおへそ辺りにかけてド真ん中。
一本筋が通るみたいに「猫の下僕」と豪快な筆文字で縦書きにドーンと書かれているのだけれど。
(女子力どこに置いてきたっ)
自戒を込めて、そう突っ込まずにはいられない。
羽理は、毎日何かしら猫にちなんだデザインのダボダボなTシャツをパジャマにしている。
暑くなってからはTシャツの丈が長いのをいいことに、お風呂上がりから朝起きて外行き用の服に着替えるまでずっと。下はショーツオンリーで、もちろん上はノーブラ上等な有様。
さすがにこのままでは出られそうにない。
とりあえず――。
そう思った羽理は、こういう時の必殺アイテム。
紺地に白の縦ストライプが入ったシャツワンピースをクローゼットから引っ張り出した。
肩がパフスリーブになっていて、ウェストがリボンで絞れるデザインになっているそのワンピは、着ればあっという間に〝それなり〟に可愛く見せてくれる優れものアイテムだ。
スカート丈もひざ下ぐらいで程よく肌を隠してくれるのも嬉しい。
胸元が開襟になっているから暑くないし、羽理お気に入りのよく着るアイテムだ。
ブラジャーだけはしないとまずいので、スポッとかぶるタイプの楽ちんブラをタンスから引っ張り出した。
ショーツがピンクでブラが黒。
「わー、見事にバラバラ」
我ながら終わってる!と思いながらも、誰かに見せるあてがあるわけじゃなし。
まあいっかと開き直る。
荒木羽理・二十五歳。
彼氏いない歴が三年目を超えた彼女は、別に容姿が悪いわけでも性格が悪いわけでもない。
ただ単にあの散々な別れ以後、素敵な出逢いに恵まれなかっただけの可哀想なお一人様だ。
とはいえ――。
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