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(ま、現実逃避だがな)
実際問題、時間的ゆとりがないのは今日出向いた先とコラボ予定のイベントの方だ。
アクアポニックス視察は、急いで行かなくても別に問題はないので、夢想するだけ無駄なのは大葉にも分かっていた。
***
土恵商事はその会社の特性から、ビル内にシャワールームを完備している。
社員らは皆、大抵作業して帰った後はシャワーで汚れを落として着替えることにしている者が多い。
大葉ももちろんそうだ。
羽理の前でくさいのは有り得ないと思うのと同時に、だがこれ以上遅くなるのは良くないんじゃないか?という思いが交錯して。
『迷ってるくらいなら、ちょっと遅くなるってメールしたらいいじゃないですか。時間がもったいないですよ?』
脳内でミニ羽理がそうささやいてくるのだけれど、いざスマートフォンを持ち上げて羽理の連絡先を呼び出したら、妙に緊張して手指が震えてしまう大葉だ。
(お、俺はいつからこんなヘタレになったんだ!)
そう自問自答したら、すぐさま『ずっとですよ?』とミニ羽理が律儀に答えてくれる。
(いや、そういうの、要らねぇから!)
と脳内で色々ミニ羽理に言い訳をしていたら、手に持ったままのスマートフォンがブブッと震えて驚いてしまう。
通知に誘われてメッセージアプリを開いてみれば、送信者には〝猫娘〟と表示されていて、『屋久蓑部長、まだ出張先ですよね? 夕方の待ち合わせ、どうしましょう? 後日にしますか?』と書かれていた。
(あ。登録者名……)
さすがに恋人になったのにこのままではよろしくないと思った大葉だったけれど、まさか自分が羽理の携帯の中で、未だ〝裸男〟のままになっているとは思ってもいないだろう。
そうして、もちろん、今最優先すべきはそこじゃない。
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