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羽理は「そ、そういうわけではっ」と誤魔化したのだけれど。
いつもならもっと突っ込んでくるはずの仁子が、今日はやけにアッサリと引き下がって、「……じゃ、羽理。申し訳ないけど私、今日は大事な用事があるから先に帰るわね? アンタもさっさと帰りなさいよ!?」とか言うから。
羽理はホッとしつつ、ひらひらと手を振って仁子が帰っていくのを「お疲れさま」と見送った。
さて、自分も荷物をまとめて帰ろうと、羽理が鞄を手にしたと同時。
「ねぇ荒木さん。今日のお昼、キミにだけご飯おごり損ねたじゃない? ……もしよかったら、夕飯でも一緒にどうかな? ほら、女性社員二人に差があるのは僕の中で何だかいけないことに思えちゃってさ……」
財務経理課長の倍相岳斗が近付いてきて、何とも魅力的な誘惑をしてくる。
「……お誘い凄く嬉しいんですけど、今日はこの後予定があるんです。すみません」
「もしかして……デート?」
ほわんと聞かれた羽理はその春風のような雰囲気に流されて、「実は屋久蓑部長とお買い物に行く約束をしてまして」と素直に答えそうになってから、ハッとして「えっと……………、お、お友達とお買い物の約束をっ」と答えた。
さすがに上司と二人きりで化粧品を買いに行くだなんて、会社の人にバレるのは良くないだろう。
***
(あれ? 何だろ、今の間……)
荒木羽理がこの課に配属されてきてからずっと。
人畜無害な上司を装いながら、虎視眈々と羽理との距離を少しずつ詰めてきた倍相岳斗は、どこか歯切れの悪い部下の物言いに違和感を覚える。
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