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(いや、俺だって別に部下に対してにこやかに接したくなかったわけじゃねぇぞ? ただ……)
羽理の手を引きながら化粧品売り場までやって来た大葉は、一人色々と頭の中で考え事をしていたのだけれど。
「そう言えばぶちょ、じゃなくて……えっと……あ、あなた様……は昔、倍相課長と違って人を――特に女性社員を寄せ付けない鬼課長さんだったって……人事課の那須さんが仰ってたんですけど……」
立ち止まったことで、やっと呼吸が整ってきたらしい羽理から話しかけられて、慌てて彼女に意識を戻した。
(おい、荒木羽理! お前いま、しれっと名前呼び回避で変な呼称持って来やがったな!?)
などと思いつつ、羽理の口から出た〝那須〟という名にあからさまに眉をしかめた大葉だ。
というのも、人事課にいる〝那須みのり〟は大葉と同期の女性社員の名で、割と美人だが色んな意味で圧が強すぎて大葉は余り得意じゃないからだ。
「私もこうやって話せるようになるまでは、……たっ、たっ、……た、い……よぉ?……のこと、取っつきにくい雲上の部長様だと思っていたんですけど……」
と、やたら名前のところだけしどろもどろで前置きをしてから、羽理がすぐそばの大葉を猫のような大きな目でじっと見上げてくる。
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