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羽理から、『距離をあけて欲しいなら手を放して欲しい』的なことを言われて、大葉は単純に『イヤだ!』と思った。
「あー。……やっぱ、手も距離もこのままでいい……」
ぼそぼそとつぶやくように言って、羽理の手を恋人つなぎの要領でギュッと指を絡めて握り直すと照れ隠し。
羽理の方を見ないままに「――で、何がいるんだ? うちに置いとくやつだから心配しなくても全部俺が買ってやるぞ? 遠慮なく好きなのを選べ」と畳みかけた。
目の前に広がるのは色んなブランドごとに別れた化粧品売り場。
他の売り場より明るく見えるのは、コーナーごとに照明がついているからだろう。
羽理はキョロキョロと何かを探す素振りをしたあと、その中のひとつ、【Kira Make】というコスメブランドの売り場前に立って、繋いだままの大葉の手をクイッと引っ張ってきた。そうして、何故か困ったような顔をしてこちらをじっと見上げてくるから。
(な、何だっ!? 即決するのを躊躇うくらいそのブランドの物は高いのかっ!?)
羽理の、ほんのちょっと釣り気味になった大きな目で見詰められると、どうにも調子が狂ってしまう。
大葉は慌てて羽理から視線を逸らせると、売り場に並んだコスメたちの値札を確認して。
(ん!? ファンデーションがコンパクト込みで二千円以下!? 口紅も一本五百円ほどしかしねぇし、スキンケアアイテムとやらもちっこいのだと千円しないじゃないか)
要するに、全然高くない。
大葉が今まで付き合ってきた女性たちが買っていた化粧品は、ファンデーションもコンパクト込みだと一万円以上したし、口紅も一本四千円は下らなかったはずだ。美容液系に至っては一種類じゃ済まない上、ひとつずつが最低三千円以上はしたと記憶している。
(こら、荒……じゃなくて羽、理っ! 何でこれで俺の顔を見る!?)
もしかして、自分はこんなコスメも買ってやれないくらい甲斐性のない男だと思われているんだろうか?
そう思いながら羽理をソワソワと見詰めたら、羽理が観念したように口を開いた。
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