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「あのっ、手っ! このままだと商品の吟味が出来ません」
買ったことのあるものを選ぶならまだしも、新手の何かを買うときは色味を見るためにテスターを手の甲へつけてみたりしたい。
そう言うことをしないまでも、アレコレ手に取ろうと思ったら、片手だけは厳しいではないか。
捕まえられたままの手を掲げただけで分かってもらえると思ったのに、目で訴えてみても一向に解放してくれる気配のない大葉に、羽理は仕方なくそう言わざるを得なくて。
眉根を寄せて、指を絡ませられたままの手元を見詰めながらそう言ったら、大葉が慌てたように「あっ、あぁっ、すまんっ」とどこか名残惜しそうな様子でギュッとしていた手指を解いてくれた。
「あ、いえ。あの……むしろ有難うございます……?」
何となくの流れ。
眼前の大葉が少し気落ちして見えたから、『気になさらないで下さい』と言ったつもりが、何故か『有難う』になってしまって。
「――? それは……何に対する礼だ!?」
大葉から至極まともな返しをされてしまった。
手を解放してくれたことへの感謝か、はたまた歩くのが遅い自分を気遣って、大葉がずっと手を引いて歩いてくれたことへの謝辞か――。
多分大葉としては後者のつもりに違いない。
そう思った羽理は、
「えっと……どんくさい私がはぐれないよう、手を掴まえて歩いて下さったことに対して、……ですかね?」
と自分としての最適解を選んだ。
そうしながら――。
(もぉ、部長ったら普通につないで下さったんで大丈夫なのに……指先がんじがらめとか。……どんだけ私のことはぐれやすいと思ってるのっ!)
確かに羽理はどうしようもないほどの方向音痴ではあるけれど、実際はぐれたところでそんなに客でごった返しているわけでも、店舗がめちゃくちゃ広いわけでもない。
いざとなれば携帯で連絡を取ることも出来るし、会えなくなんてならないはずだ。
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