12.苦しい言い訳

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 ちょっと荒木(あらき)羽理(うり)から離れて買い物かごを取りに行っただけなのに。  屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)が、かごを片手に戻って来てみれば、見知らぬスーツ姿の男が羽理の前に立っていた。  ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げたその男は、明るい印象のキャラメルブラウンの髪色をしていて、見るからにチャラい。  それで、即座に(ナンパか!?)と思ってしまった大葉(たいよう)だ。  何せ羽理は絶世の美女(←あくまでも大葉(たいよう)主観)。身長も小柄で、守ってやりたくなるような愛らしさも兼ね備えている。  ちょっぴり釣り気味の大きな瞳は、じっと見詰められると思わず戸惑ってしまうほどに蠱惑的(こわくてき)だ。 (ま、口開いたら相当残念なんだがな……)  大葉(たいよう)はそのギャップがたまらなく好きなのだが、あの魅力が分かる人間は少数派(レアキャラ)だと思いたい。  大葉(たいよう)の視線の先、愛しの羽理が戸惑っている様子だったから。  大葉(たいよう)は大股で羽理の元へと急いだ。  と――。 「――ここで会えたのも何かの縁ですし、これから俺と一緒に食事でも……」  チャラチャラした雰囲気のスーツ男が、あろうことか羽理にそんなことを言っているのが耳に入って。  思わず手にしていたかごをヌッと二人の間に突き出して、「生憎(あいにく)だがコイツは俺の連れだ」と恋人宣言をしてしまった大葉(たいよう)だ。  なのに――。 「え? ――や、くみの……ぶちょ? ちょ、ちょっと待って? 何で先輩が部長と一緒にいるんっすかっ!?」  とか――。
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