12.苦しい言い訳

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「あ、はい。俺も……土恵(つちけい)の人間っす」  そう答えるチャラ男を牽制(けんせい)しつつ羽理(うり)の手首を握ると、大葉(たいよう)は彼女の小さな身体をこれ見よがしに自分の方へ引き寄せた。 「あひゃっ!? ――ちょっ、っ!」  目の前の男のせいだろう。  折角名前呼びをしてくれていた羽理が、苗字+役職呼びに戻ってしまったではないか。  そのことも非常に面白くないと思ってしまった大葉(たいよう)だ。 「……、呼び方」  ちらりと羽理に視線を落とすなり、わざと〝羽理〟のところを強調してそう告げたら「ばっ、バカなんですかっ!? 五代(ごだい)くんがいるのに!」と小声で抗議してくる。 (バカ!? ちょっ、お前的にはそうかも知れんが、俺としては五代がいるからこそ!なんだがな!? それに……そんなに俺と付き合ってるのがバレたくないのか、荒木(あらき)羽理(うり)! 土恵(つちけい)は社内恋愛には相当寛大だぞ!?)  などと思っている大葉(たいよう)を置き去りにして、羽理がソワソワと言い訳を開始してしまう。 「あ、あのね、五代(ごだい)くん。……ぶ、部長とは……そのっ、えっと、……そう! し、仕事のことで視察に来てるの!」  羽理は懸命に大葉(たいよう)から距離をあけようともがきつつ、目の前のチャラ男にそう言ってから、すぐそばに立つ大葉(たいよう)を非難がましく見上げてくる。  その目は明らかに『手、離して下さい』と訴えてきていたが、大葉(たいよう)はわざと気付かないふりをした。  その徹底ぶりに観念したのだろう。  羽理が、小さく吐息を落とすなりスッと手の力を抜くと、「屋久蓑(やくみの)部長、彼は私が教育係をした後輩で、現在は営業課に配属されている五代(ごだい)懇乃介(こんのすけ)くんと言います」と紹介してくれた。 (羽理が教育係をしていた後輩……?)  ――だからやたらと懐いているのか。  そう思いはしたものの、どうにも納得がいかない。  そもそも、自分にも後輩は沢山いたし、もちろん若い頃には教育係をして育てた(やから)だって何人もいた。
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