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それでもさすが、断られるのには慣れっこ。マイナススタートからの相手でも上手く取り入り粘って何ぼのバイタリティ溢れる営業職と言うべきか。
「あ、あのっ。荒木先輩は料理とか……」
懲りない懇乃介がさらに食い下がって来て。
大葉は内心、(こいつ、すげぇな)と思わずにはいられない。
(いやいやいや! 感心してる場合じゃねぇぞ、俺!)
だがすぐに、羽理と懇乃介をそわそわしながら交互に見詰めた大葉だ。
そんな大葉の目の前。
「えー、私? 私はお料理がからっきしダメだから。そういうのを求める人とは付き合えないかな!? あー、でもっ! 手料理を食べさせてもらうのは好きだから五代くんの言いたいことは痛いほど分かるよ!? 胃袋掴まれたらやばいよね!? 美味しいものを振る舞われたらつい懐いちゃ……」
そこで、すぐ横にいる大葉が嬉しそうに「羽理……」とつぶやいて頬を緩めるのを見て、ハッとしたように口をつぐむと、
「と、ところで五代くんはお料理出来る人?」
などと取り繕って。
「あ、いや……お、俺も食う専門です……」
と懇乃介をしょげさせるから。
(羽理っ。今日も明日も明後日も……美味いもん、たんと食わしてやるからな!?)
一気に機嫌が回復した大葉だ。
「そっか。じゃあお互い自分でも少しは料理が作れるよう頑張ろうね。――ま、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいの、自分が一番よく分かってるんだけど」
「あ、はい、そうっすね。俺も……頑張ります!」
そんな二人の会話を聞きながら、
(はっはっはっ! どうだ、五代。脈なしだと分かったか!)
と声には出さず、心の中で勝利宣言をした大葉だったのだけれど。
ワンコ後輩は、大葉が考えるよりもはるかに手強かった。
「――それで荒木先輩! 料理が上達したあかつきには俺の手料理、食べてくれますか?」
とか。
思わず「はぁ!?」と言って、二人を振り向かせてしまった大葉だ。
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