12.苦しい言い訳

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 それでもさすが、断られるのには慣れっこ。マイナススタートからの相手でも上手く取り入り粘って何ぼのバイタリティ(あふ)れる営業職と言うべきか。 「あ、あのっ。荒木(あらき)先輩は料理とか……」  懲りない懇乃介(こんのすけ)がさらに食い下がって来て。  大葉(たいよう)は内心、(こいつ、すげぇな)と思わずにはいられない。 (いやいやいや! 感心してる場合じゃねぇぞ、俺!)  だがすぐに、羽理(うり)懇乃介(こんのすけ)をそわそわしながら交互に見詰めた大葉(たいよう)だ。  そんな大葉(たいよう)の目の前。 「えー、私? 私はお料理がからっきしダメだから。そういうのを求める人とは付き合えないかな!? あー、でもっ! 手料理を食べさせてもらうのは好きだから五代(ごだい)くんの言いたいことは痛いほど分かるよ!? 胃袋掴まれたらやばいよね!? 美味しいものを振る舞われたらつい(なつ)いちゃ……」  そこで、すぐ横にいる大葉(たいよう)が嬉しそうに「羽理……」とつぶやいて頬を緩めるのを見て、ハッとしたように口をつぐむと、 「と、ところで五代くんはお料理出来る人?」  などと取り(つくろ)って。 「あ、いや……お、俺も食う専門です……」  と懇乃介(こんのすけ)をしょげさせるから。 (羽理っ。今日も明日も明後日も……美味いもん、たんと食わしてやるからな!?)  一気に機嫌が回復した大葉(たいよう)だ。 「そっか。じゃあお互い自分でも少しは料理が作れるよう頑張ろうね。――ま、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいの、自分が一番よく分かってるんだけど」 「あ、はい、そうっすね。俺も……頑張ります!」  そんな二人の会話を聞きながら、 (はっはっはっ! どうだ、五代。脈なしだと分かったか!)  と声には出さず、心の中で勝利宣言をした大葉(たいよう)だったのだけれど。  ワンコ後輩は、大葉(たいよう)が考えるよりもはるかに手強(てごわ)かった。 「――それで荒木(あらき)先輩! 料理が上達したあかつきには俺の手料理、食べてくれますか?」  とか。  思わず「はぁ!?」と言って、二人を振り向かせてしまった大葉(たいよう)だ。
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