12.苦しい言い訳

8/10

2003人が本棚に入れています
本棚に追加
/453ページ
「お、お前らっ。……長話が過ぎるぞ? ……羽理(うり)、さっさとそれ、かごに入れろ。生鮮食品コーナーへ移動するぞ!」  グイッとかごを突き出して羽理が手にしたファンデーションを中に入れさせたと同時――。 「――あの、さっきから気になってたんですけど……視察なのに何故ファンデーション? そもそも荒木(あらき)先輩、何で化粧品コーナーにいたんっすか?」  懇乃介(こんのすけ)から、至極ごもっともな質問が投げかけられた。 *** 「そ、それはっ」  懇乃介(こんのすけ)の言葉に思わず言葉に詰まってしまった羽理(うり)だ。  助けを求めるようにすぐ横に立つ大葉(たいよう)を見上げたら、俺に振るなよ!と言いたげな顔をされてしまう。  だが――。 「キミもさっき俺たちに言っただろ。もう定時過ぎてんだ。彼女には俺の視察に付き合ってもらう代わりに好きなモン買ってやるって約束してあんだよ」  ぶすっとした調子ながらも大葉(たいよう)はちゃんと助け舟を出してくれた。 「なるほど。……けど、荒木(あらき)先輩は財務経理課所属ですよね? いくら総務部の人間だからって……屋久蓑(やくみの)部長の視察に付き合ってること自体変じゃありません?」  大葉(たいよう)がおさめる総務部には企画管理課もある。リサーチならそちらの社員の方が適任と言えた。  五代(ごだい)懇乃介(こんのすけ)はそれを指摘しているのだろう。  懇乃介(こんのすけ)には、こんな感じで案外鋭いところがある。  羽理が面倒を見ている時からそうだったけれど、抜けているように見えて案外物事の本質は見えていたりするのだ。  それに加えて物怖(ものお)じしないところと、少々のことでは諦めないしつこさが営業に向いていると見初(みそ)められての、営業課への配属だったのだけれど。 (お願いだからここでそれを発揮しないでっ)  と思ってしまった羽理だ。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2003人が本棚に入れています
本棚に追加