12.苦しい言い訳

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「今夜はどっかの食い物屋に飯でも連れてってやろうかと思ってたが、予定変更だ。――俺が作る」 「えっ!?」 「羽理(うり)、パスタは好きか? 鮭とほうれん草のクリームパスタを作ろうと思うんだが……好きじゃないならメニュー変更ももちろん可能だぞ?」 「あ、あの……屋久蓑(やくみの)部長?」 「大葉(たいよう)」 「あー、あのっ。た、いよう……。そんな気を遣って頂かなくても私、夕飯とか近所のコンビニで適当に買って帰りますし……大丈夫ですよ?」 「何だ、羽理。俺の飯は食えんって言うのか?」  言外に〝あいつのは食いに行く気なのに?〟と付け加えられた気がして、思わず吐息を落としそうになった羽理だ。 (あー、何だか面倒なことになってきましたよ? きっとこれ、さっき五代(ごだい)くんが余計な一言を投げ掛けてきたせいですよね!?)  屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)には妙に負けず嫌いなところがあるらしい。  今まで接点がなかったから気付かなかったけれど、まぁ若くして部長にまで昇り詰めたような人だ。  多かれ少なかれ闘争心はないと無理なんだろうな?と思いはしたものの、羽理は正直面倒くさいなと感じずにはいられない。 「私、五代くんの手料理、食べに行くねって答えてませんよ?」  仕方なくそこは是とも非とも返答していないと告げた羽理だったのだけれど。  途端大葉(たいよう)がパッと瞳を輝かせてヨシヨシ、と羽理の頭をガシガシ撫でてくるから。 「もぉっ。髪の毛グチャグチャになっちゃったじゃないですかぁ」  と、ぷぅっと頬を膨らませた羽理だ。 「ああ、すまんな。――けど、お前はどんなにボロボロな状態でも可愛いぞ?」  なのに大葉(たいよう)がニコッと極上の笑顔を向けてそんな言葉を投げ掛けてくるから。不覚にも心臓がトクンッと跳ねて。 「はぅっ」  またしても『不整脈!?』と思ってしまった羽理だった。
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