13.お医者様でも草津の湯でも

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 購入した食材を冷蔵庫へ入れに帰りたい、と大葉(たいよう)から言われた羽理(うり)は、愛車コッペンごと会社近くの屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)のマンションへ移動した。  アスマモル薬局(ドラッグストア)からここまでの道のり、大葉(たいよう)が運転したのには大した理由はない……と、思う。  ただ単に駐車場までの道すがら、「羽理、ここから俺の家まで迷わず行けそうか?」と大葉(たいよう)から聞かれて、羽理が言葉に詰まった結果なのだから。  だが、実は今まで何だかんだと愛車のハンドルを他人様(ひとさま)に譲ったことのなかった羽理だ。  何なら方向音痴の自分のためにこそナビを付けているわけで……羽理がいくらダメダメでもナビに行き先さえ設定すれば問題ない。  ビタミンカラーが可愛い愛車コッペンちゃんのことを羽理は物凄く気に入っていたし、人に運転席を譲るなんて考えられなかったはずだ。  なのに、大葉(たいよう)がそうすると言ったとき、何故かそんなに抵抗がなくて。  案外すんなりハンドルを明け渡してしまえた自分に、羽理自身とても戸惑っていたりする。 (多分、屋久蓑(やくみの)部長の圧が高かったからですかね!?)  羽理自身その事象をうまく説明できなかったから、仕方なくそう結論付けたのだけれど。  恐らくはどんなに相手の圧が強くても、本当に嫌なら自分が絶対にへこたれるタイプではないはずだと言うことに、羽理は薄っすら気付いていて気付かないふりをした。  考えても分からないことはスルーするに限る。  羽理は今までだって――仕事ではともかくとして――プライベートではそうしてきたのだ。  今回だってそうしようと思っただけのことだった。 *** 「お前の着替えも今日着ちまって替えがねぇし、化粧品買いそろえたらついでにお前の部屋へ寄って着替え、調達し直すだろ?」  そそくさと冷蔵庫へモノを詰め込みながら羽理(うり)の方を振り返ってきた大葉(たいよう)に、物思いに(ふけ)っていた羽理は、「あっ。はい、それもそうですね」と半ば条件反射で答えてしまった。
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