13.お医者様でも草津の湯でも

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 以前、一見(いちげん)さんと(おぼ)しき読者様からエッチシーンにリアリティがないだの、恋愛感情がイマイチ伝わりにくいだの感想を書かれたことがあるけれど、それもそのはず。  羽理(うり)の恋愛小説はみんな何かで読んだり見たり聞いたりしたものの受け売りなのだから。  実体験に乏しい妄想小説である以上、リアリティなんて出せるわけがない。  でも――。  そこでちらりと愛犬キュウリを、目を細めて撫でさする屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)を見遣ると、羽理はどこか落ち着かない気持ちをなだめた。 「あ、あのっ、屋久蓑(やくみの)部長」 「……大葉(たいよう)、な?」  呼び掛けると同時、足元のキュウリを撫でていた大葉(たいよう)が、ふと手を止めて鋭い眼光でこちらを睨み上げてくるから。  その視線と自分のものがかち合った途端、羽理はまたしても心臓がトクン!と跳ねて、「うっ」と胸を押さえた。 (もぉ、怖いお顔するからまた心臓が痛くなっちゃったじゃないですかっ。不整脈で倒れたら治療費は部長に請求しちゃいますからね!?)  胸元をギュッとしながら大葉(たいよう)を睨んだら、そんな大葉(たいよう)越し。キュウリから純真無垢(じゅんしんむく)な曇りなきつぶらな(まなこ)でじっと見上げられて……。  何だか自分が彼女の飼い主様に対して良からぬ気持ちを抱いているような気になって、ソワソワと落ち着かなくなった羽理だ。 (だっ、大丈夫だよ? キュウリちゃん。私、貴方の飼い主さんに害をなす気は微塵もないからっ)  そんな言い訳をしつつも心の中――。 (けど……今日の私、胸が痛くなり過ぎじゃない? 一度心電図をとり直して頂いた方がいいよね? もちろん原因は屋久蓑(やくみの)部長っぽいし、で!)  なんて具合に、羽理は病院行きを決意した。  その上で、羽理は先程の続きの言葉を言わずにはいられない。
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