13.お医者様でも草津の湯でも

5/10

2000人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
「あ、あの、それだと何だかお泊り前提みたいになってると思うんですけど……」 「ん? もちろんそのつもりだが?」  キョトンとした顔をした大葉(たいよう)から「そもそも入浴後に片道二〇分の距離を、相手を送迎するためだけに費やすなんて馬鹿くさいだろ?」と、さも当たり前みたいに付け加えられて。  そ、それは確かにその通りなんですがっ!と思いつつも反論したくてたまらない羽理(うり)だ。 「大葉(たいよう)のお家は広いからいいですよ? でもうちは……ご存知と思いますけどめっちゃ狭いワンルームなんです! お部屋がひとつしかありません! 二人でお泊りしたら……その……あの……」  別室へ……が出来ないから、一緒の部屋に寝るしかなくなるではないですか。 (それは困りますっ!)  そう思って。 「ひょっとして大葉(たいよう)は恋愛経験めっちゃ豊富な人ですか? 抱いた女性の数も、両手両足の指じゃ足りないくらいなんじゃないですかっ!?」 「は? 何だいきなりっ」  キュウリを構うのをやめて慌てたように立ち上った大葉(たいよう)に、斜め上から困ったようにじっと見下ろされて。  羽理は無意識に先程手渡されたばかりのスーツを抱く腕にギュウッと力を込めた。 (だってもしそうだとしたら……すっごくすっごくではないですかっ!)  プレイボーイに手玉に取られるのは(しゃく)(さわ)るから……。  すぐさまそのモヤモヤの正体を、そう結論付けた羽理だ。  大葉(たいよう)が知ったら『誰がプレイボーイだ、バカ者め! 自慢じゃないが、俺はめちゃくちゃ奥手だぞ⁉︎』と要らぬ告白をしかねないことを思っているのだが、残念ながらに入っている羽理は気付けない。
/452ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2000人が本棚に入れています
本棚に追加