13.お医者様でも草津の湯でも

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***  いきなり大葉(たいよう)に抱き締められて、「お前のそれ、俺のこれと一緒じゃないのか?」とわけの分からない質問を投げ掛けられた羽理(うり)は、大葉(たいよう)早鐘(はやがね)のように打ち付ける心臓辺りの服を更にギュゥッと強く握りしめた。  それだけでも一杯一杯なのに、大葉(たいよう)の胸元に押し付けられた耳で、無理矢理彼の鼓動を聴かされて――。  トクトクと小動物さながらの早いビートを刻む大葉(たいよう)の心音を聴きながら、涙目で訴えた。 「大葉(たいよう)の鼓動も野ネズミ並みにめっちゃ早い気がしますけどっ、……私っ、お医者様じゃないので音を聴かされても自分のと大葉(たいよう)のがかどうかなんて判断つきませんっ!」    羽理としては真剣に異議申し立てをしたというのに。  その言葉を聞いた大葉(たいよう)が、「野ネズミの心音は分かる癖に俺が言ってる言葉の意味が分からないとか……お前本気でバカなのか!?」とか言ってくるから……。  羽理は頭に載せられた大葉(たいよう)の手からサッと逃れると、間近で彼を見上げてキッと睨み付けた。 「バカとかっ! ……いくら何でも失礼ですっ!」 「俺のことをちっこいネズミに例えるお前の方がよっぽど失礼だ!」  ムスッとした様子の大葉(たいよう)に睨み返された途端、またしても心臓がズキンッと痛んで。 「はぅっ」  慌てて胸を押さえながらも、羽理は(暴言を吐かれてもハンサムに見えちゃうとか! 部長、ずるくないですか!?)と心の中で懸命に反論する。 「もう一度だけ聞いてやる。――お前が苦しくなるのはどういう状況の時だ!?」  そんな羽理(うり)に、大葉(たいよう)が畳み掛けるように問い掛けてくるから、羽理は半ば怒鳴るように「あ、貴方が不用意に私に触れてきた時です!」と答えていた。 「なぁ、羽理。そこまで分かってるくせにその先が分かんねぇとか……。お前本気で言ってるのか?」  羽理の返答を聞くなり、はぁーと溜め息混じりにトーンダウンしたバリトンボイスが降って来て……。  頭を(かす)めた大葉(たいよう)の吐息に、羽理の心臓はバクバクしっぱなしで、今にも止まってしまいそうに思えた。
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