13.お医者様でも草津の湯でも

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「あのっ、申し訳ない、の、ですが……今すぐ救急車を呼んでください……。お願いします……」  張り裂けそうな胸を押さえながら懸命に訴えたというのに。 「残念だったな、羽理(うり)。お前のそれはお医者様でも草津の湯でも治らんやつだ」  などと、屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)が、死神さながらに非情な宣告をしてくるのはどういう事だろう?  羽理は大葉(たいよう)の言葉に瞳を見開いて言葉を失って――。  心の中、(私、不治の病にかかってしまったみたいです、お母さんっ。先立つ不幸をお許し下さいっ)と、遠方に住むたった一人の肉親を思って我が身を(なげ)いた。  なのに――。  大葉(たいよう)は自身も同じ症状だと言ったくせに、やけに続けるのだ。 「だがな、羽理。医者でも名湯でも治せねぇお前のそれも俺のこれも……。二人で一緒にいれば、相乗効果で自然と治る」 (そんな共鳴反応を起こすような心臓病なんて聞いたことありません! 訳が分からなさ過ぎるんですけどっ)  そう思いつつも、またバカ呼ばわりされるのは嫌なので、羽理なりに一生懸命考えて答えをひねり出した。 「……つまりは……ショック療法しかないってことですか?」  痛みの原因とともに過ごす事がお互いのためになるだなんて……そうとしか思えない。  それで心臓が止まってしまったら元も子もない気がするのだけれど……。 「ああ、それしか方法がねぇからな」  と、いとも簡単に断言されてしまっては、うなずくしかないではないか。 「ってわけで、俺と一緒に過ごすだろ?」  どこかな声音で言われて、羽理はしぶしぶ首肯(しゅこう)したのだけれど。 (――そういえば部長、私のこと好きだって酔狂なこと、言ってくださってましたもんね。こんな状況でも、〝好き〟と言う気持ちだけであんなにも幸せそうなお顔が出来るんだ)  そう思ったら、少しだけそんな大葉(たいよう)のことが羨ましくてたまらない羽理だった。
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