14.いなくならないでくれ

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「なぁ羽理(うり)。さっきから思ってたんだがな……。距離、あけすぎだろ」  言われてグイッと大葉(たいよう)に腕を引かれた羽理は、「ふぇっ!?」という驚きの声ごと封じ込めるみたいに、背後から大葉(たいよう)に包み込まれて、ワインが並んだ棚の前にいる。  背中に大葉(たいよう)の温もりを感じながらのワイン選びは、全く銘柄が頭に入ってこない。 「屋久蓑(やくみの)ぶちょ、は……私を殺す気……です、か?」  確かにショック療法を受け入れた羽理ではあったけれど、こんな風に不用意に距離を詰めるのは、動きが怪しい心臓のためにもやめて頂きたい。  現に今だって、胸の中で心臓が馬鹿みたいに踊り狂っているのだ。 「――何度言わせるんだ羽理。部長じゃなくて大葉(たいよう)、な?」  なのにそんな羽理の訴えなんてどこ吹く風。  懸命に告げた抗議を完全スルーされて、すぐ耳元。耳触りの良いバリトンボイスで呼び方を訂正された羽理の心臓は、苦しいくらいにドクドクと暴れている。  こんなにも自分は動揺しまくっているというのに……。  大葉(たいよう)はいっそ清々(すがすが)しいくらいに涼しい顔をしていて、何だか納得のいかない羽理だ。 「な、んで……大葉(たいよう)はそんな平気そうな、んですか?」  自分の不整脈の方が、大葉(たいよう)より重篤(じゅうとく)な症状なのかも知れないと思うと同時、大葉(たいよう)がふっと柔らかく微笑んで。 「それはお前が俺をドキッとさせるような行動に出ないからだろ」  今度こそククッと声に出して笑いながら「期待してるぞ?」と付け加えられた羽理は、ますます困惑してしまう。
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