14.いなくならないでくれ

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*** 「もぉ、もぉ、もぉ! 何でサラッとお酒なんか出してくるんですかぁっ! 私、ついうっかり飲んでしまったではないですかぁぁぁ! この手練(てだ)れさんめっ!」  キュルンと(うる)んだ瞳が愛らしい、大葉(たいよう)の愛犬キュウリを(ひざ)の上に乗っけて撫で撫でしていたら、「(めし)出来たぞぉー」と大葉(たいよう)に呼ばれて。  食卓に並べられたレストランも顔負けといった感じの綺麗な盛り付けがなされた『鮭とほうれん草とマッシュルームのクリームパスタ』に、羽理(うり)が上機嫌で舌鼓(したつづみ)を打っていたら、「これ、クリーム系のパスタに合うぞ」という触れ込みのもと、大葉(たいよう)から滅茶苦茶自然な感じでワイングラスに注がれた(うっす)ら琥珀色をした飲み物が目の前に置かれた。  その流れのまま、(よど)みなく大葉(たいよう)から「乾杯」とグラスを掲げられた羽理は、つられるようにグラスを軽く持ち上げて乾杯の仕草をして一口中身を飲んで。 「わぁー、この、スッキリしてて飲みやすいですぅ~♪」  と上機嫌でグラスをテーブルに戻してハッとした。  そう。そこにきて初めて……冒頭の「もぉ」の連呼(トリオ)から始まる「何でさらっと~」や「ついうっかり~」のセリフへと繋がった感じだ。  そんな羽理に対して大葉(たいよう)は 「もぉもぉもぉ、って……お前は牛かっ!」  とか何とか苦笑しつつ。 「いや、だって羽理……俺が売り場で辛口のワイン飲めるか?って聞いたとき、めっちゃスムーズにうなずいただろ? そんなんされたらてっきり飲むことを承諾(しょうだく)したもんだと思うじゃねぇか」  大葉(たいよう)からそう畳みかけられた羽理は「うっ」と言葉に詰まって。  あの時は大葉(たいよう)に後ろから包み込まれるようにされて、それどころではなかった。  でも、そう明かすのは何だかちょっぴり腹立たしい。
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