14.いなくならないでくれ

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「なぁ、羽理(うり)よ。――お前、ホント可愛いな」  素直に言ってテーブル越し。  自分が先ほど中身を満たしたばかりのワイングラスの底部(プレート)に左手を添えて、右手の人差し指(ゆびさき)でクルクルと飲み口(リム)をなぞっている羽理の方へスッと手を伸ばして――。  プレートに載せられたままの羽理の手を包み込むように右手を載せたら、羽理が「ひゃっ」と悲鳴を上げて肩を跳ねさせた。  だが、幸い大葉(たいよう)の手が重石(おもし)になっているのでグラスは倒れずに済んだし、琥珀色の液体も丸みを帯びたボウルの中でゆらゆらと不安定に揺らめいただけ。  それが羽理の心を如実(にょじつ)に反映しているように思えて、大葉(たいよう)はそんなことさえ嬉しくてたまらない。 「にゃ、(にゃに)をいきなり血迷ったことをっ」  包み込まれた手を、大葉(たいよう)の手の下から取り戻そうとモダモダともがきながら、羽理がオロオロと瞳を揺らせるから。  大葉(たいよう)はクスッと笑って「いや、だって……お前が俺のこと〝ハンサム〟だって言ってくれたから嬉しくてな」と言ったら、「しょ、しょんにゃこと言ってません! 言ってたとしても……そう! 言葉のアヤれす!」とか。 「ん、そう言うことにしといてやるよ」  余裕綽々(しゃくしゃく)な様子で大葉(たいよう)が言い放ったら、羽理がキッと睨み付けてきた。  けれど大葉(たいよう)はそんな視線すらちっとも不快に感じなくて。  そればかりか、そういうところも含めて羽理のことを愛しいな、と思った。
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