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「おはよぉ~。今日も荒木さんと法忍さんは仲良しさんだねぇ~」
仁子と話していたら、不意に背後から頭の中で思い浮かべていた相手――倍相岳斗にのほほんと声を掛けられて、「おはようございます」と返す仁子を横目に、羽理は思わず「ごめんなさいっ!」と謝ってしまっていた。
「え? 荒木さん、何で謝ったの? まだ始業開始のベルは鳴ってないし、雑談してても何の問題もないんだけどな?」
そこまで言ってから、岳斗は「あ……」とつぶやいて。
「さては法忍さんと一緒に僕の悪口を言ってたんでしょう?」
と、冗談めかして柔らかく笑い掛けてくる。
そんな岳斗に、羽理は慌てて首を横に振った。
「そ、そ、そ、そんなわけないですっ。課長は私の推しなのにっ」
思わず言わなくていい付け加えをしてしまって、岳斗に瞳を見開かれた羽理は、余計にワタワタと慌ててしまう。
「あ、あのっ、今のはえっと……へ、変な意味ではなくて、その……」
懸命に失言をリカバリーしようと頭をフル回転させている羽理の横。ニヤリと笑った仁子が、「おっ、羽理。とうとう課長本人に推し活の尻尾を掴ませちゃったかぁ~」とクスクス笑ってくるから。
羽理は仁子の口を手のひらでバフッと塞いだ。
羽理に口封じをされた仁子が、尚もムグムグと何かを言っているようだけれど、今は手を離すわけにはいかない。
(お化粧崩れたらごめんね、仁子っ。後で仁子の分まで私が働くから……その間に化粧直ししてっ!)
実は、仁子。羽理が趣味で小説を書いていて……倍相課長をモデルに作品を発表していることを知っているのだ。
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