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さすがに公開しているサイトが「皆星」なことや、ペンネームが夏乃トマトであること、それから問題の作品タイトルが『あーん、課長っ♥ こんなところでそんなっ♥』なんて破廉恥なものだということまでは教えていない。
でも……もし倍相岳斗をモデルに小説を書いていることを課長本人にポロリとバラされて……岳斗自身から「そういうのは気持ち悪いからやめて欲しいな?」とか言われてしまったら、羽理は作品を引き下げるしかなくなってしまう。
折角少しずつ読者が増えてきた作品を途中で非公開にしてしまうのは忍びないし、それに――。
(尊敬する上司から軽蔑されるのだけは何としても避けたいっ!)
そもそも、そんなことになったら仕事がしづらくなってしまうではないか。
羽理は仁子の耳元にスッと唇を寄せて『お願い、仁子っ。小説のことは話さないでっ?』と小声で耳打ちをした。
仁子がコクコクとうなずいてくれたのを確認して恐る恐る手を離すと、仁子がぷはぁーっと吐息を落として。
「息できなくて死ぬかと思ったぁー!」
とか大袈裟なことを言ってくる。
「鼻は塞いでなかったでしょ?」
「バレたか」
二人でいつものようなやり取りをしていたら、岳斗が恐る恐るといった調子で問い掛けてきた。
「あの……違ってたら申し訳ないんだけど……ひょっとして荒木さんは僕のことを気に入ってくれてると思っていい?」
岳斗から、羽理の大好きなキュルンとした表情で小首を傾げられては、否定なんて出来るはずがない。
「……はいっ。倍相課長のふんわりとした雰囲気が好きで……私、密かに課長の笑顔にいつも癒されてました」
言ってからマズいと思った羽理は、慌てて「き、気持ち悪いこと言ってすみません!」と付け加えたのだけれど。
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