15.腹黒課長の猛攻

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「やっぱり今日もダメかな? ――僕、なるべく早く荒木(あらき)さんに話しておきたいことがあるんだけど……」  そう言われてしまっては、グッと言葉を飲み込むしかない。  だって話したいことと言うのは、きっと羽理(うり)の仕事への苦言に違いないのだから。  倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)はお気遣いの上司なので、皆の前で部下の落ち度を責めることは皆無だ。  そう思ってみれば、前々から仁子(じんこ)を誘わず自分だけに声を掛けてくれようとしていたのも、そういう事情からだったんじゃないだろうか?と得心がいって。 (お弁当は……惜しいけれど仁子に食べてもらっちゃおう。部長は今日、お昼は出張で会社にいないって言ってたし……平気、だよ、ね?)  大葉(たいよう)が聞いていたら『バレなきゃいいってもんじゃねぇわ!』とプンスカしそうなことを考えながら、「分かりました」と岳斗へ了承の意を伝えた羽理だった。 *** (あー、マジで面倒くせぇーな)  朝一で社長室から呼び出しを受けていた屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)は、言われなくても分かっていた呼び出し内容が、案の定だったことにうんざりして社長室を後にした。  社長室や役員室のあるフロアから降りて自室――総務部長室――のあるフロア入り口を抜けたと同時、小さく吐息を落とした。  そうしながら、ふと視線を上げた先。  自分とは対照的に、やたらと上機嫌な空気をまとった倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)を認めて、我知らず眉間のしわが深くなる。 (ひょっとして倍相(ばいしょう)のヤツ、俺が不在の間に羽理(うり)と何かあったとか?)  荒木(あらき)羽理(うり)は自分の彼女なのだし、まさか妙なことにはならないとは思うが、やたらと胸騒ぎがするのは何故だろう。  そう思って羽理の方へ視線を移せば、こちらを見詰めていた視線とバチッと嚙み合ったと同時、わざとらしいくらいに慌てた様子で視線をそらされた。 (おい、羽理。お前、何やらかした?)  この後すぐに出張に出なければならないと言うのに、何となくこのまま放置しておいてはいけないような気持ちがして。  大葉(たいよう)は後ろ髪を引かれつつもとりあえず部長室へ入ると、携帯を取り出した。
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