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「やっぱり今日もダメかな? ――僕、なるべく早く荒木さんに話しておきたいことがあるんだけど……」
そう言われてしまっては、グッと言葉を飲み込むしかない。
だって話したいことと言うのは、きっと羽理の仕事への苦言に違いないのだから。
倍相岳斗はお気遣いの上司なので、皆の前で部下の落ち度を責めることは皆無だ。
そう思ってみれば、前々から仁子を誘わず自分だけに声を掛けてくれようとしていたのも、そういう事情からだったんじゃないだろうか?と得心がいって。
(お弁当は……惜しいけれど仁子に食べてもらっちゃおう。部長は今日、お昼は出張で会社にいないって言ってたし……平気、だよ、ね?)
大葉が聞いていたら『バレなきゃいいってもんじゃねぇわ!』とプンスカしそうなことを考えながら、「分かりました」と岳斗へ了承の意を伝えた羽理だった。
***
(あー、マジで面倒くせぇーな)
朝一で社長室から呼び出しを受けていた屋久蓑大葉は、言われなくても分かっていた呼び出し内容が、案の定だったことにうんざりして社長室を後にした。
社長室や役員室のあるフロアから降りて自室――総務部長室――のあるフロア入り口を抜けたと同時、小さく吐息を落とした。
そうしながら、ふと視線を上げた先。
自分とは対照的に、やたらと上機嫌な空気をまとった倍相岳斗を認めて、我知らず眉間のしわが深くなる。
(ひょっとして倍相のヤツ、俺が不在の間に羽理と何かあったとか?)
荒木羽理は自分の彼女なのだし、まさか妙なことにはならないとは思うが、やたらと胸騒ぎがするのは何故だろう。
そう思って羽理の方へ視線を移せば、こちらを見詰めていた視線とバチッと嚙み合ったと同時、わざとらしいくらいに慌てた様子で視線をそらされた。
(おい、羽理。お前、何やらかした?)
この後すぐに出張に出なければならないと言うのに、何となくこのまま放置しておいてはいけないような気持ちがして。
大葉は後ろ髪を引かれつつもとりあえず部長室へ入ると、携帯を取り出した。
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