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「ほら、だって髪飾りが……昨日と変わってない」
早くこの衝動のままに萌えキュンなお話を書きたい!と思いつつ、「あぁ、今朝、仁子からも同じことを指摘されたんですよー?」と、心ここにあらずな状態でおざなりに答えたら、髪に触れたまま岳斗の顔がグッと近付いてきた。
(ん? 何か距離が近すぎません?)
そう思ったと同時――。
なけなしの自衛本能が働いた羽理は、スッと身体をのけ反らせて。
「あ、あの……課長……?」
と呼び掛けて、恐る恐る岳斗を見詰めた。
「……ダメ、かな?」
「……えっと……何のことを仰ってるのかはよく分かんないですけど……多分ダメだと思いますっ」
言った通り、岳斗が何の許可を求めているのかまではハッキリとは分からなかったけれど、OKしてしまえば自分のことを好きだと真摯に伝えてくれた大葉を傷付けてしまいそうな気がして、羽理の心はザワザワと落ち着かない。
(だって課長ってば、何だかキスとかしてきそうな勢いなんだもん!)
春の陽だまりのような倍相課長に限って、まさかそんな不埒な真似はしないと信じたいけれど、今日の岳斗は少しおかしかったから。
(推しとそんなことになるのは本意じゃないもの)
羽理にとって、岳斗はあくまでも日々に潤いを与えてくれる有り難い〝推し〟。
ヒーローのモデル役である彼が迫るべき相手は、羽理が『皆星』で書いているヒロインちゃんであって、羽理自身ではない。
(何なら仁子に迫ってくださったら私、萌えまくれるんだけどな!?)
そう。羽理は、岳斗が女性を口説くところを、あくまでも〝外野として観察したい〟のだ。
さっきは岳斗の行動が恋愛経験の乏しい羽理にすごく良い絵面を思いつかせてくれる刺激になって「よっしゃぁ!」となったけれど、ハッキリ言ってそれ以上のことは望んでいない。
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