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「それは……いま僕たちのいるところが、周りから見通せる場所だから、かな?」
キュルンとした目で小首を傾げられて、羽理はふぅっと小さく吐息を落とした。
「場所の問題ではありませんよ? 先ほどから倍相課長の私への接し方が上司と部下の立ち位置としてはやけに近過ぎるのが落ち着かないだけです。もしそれ以上踏み込まれたいと言う意味での『ダメかな?』だとしたら……私はそれを望んでいません。――課長はあくまでも私の推しなので。推しとは過度な接触を取ってはいけないのです」
未だ髪に掛かったままの岳斗の手をすっと避けながら一気にそこまで告げて。
「えっと……倍相課長は私に何かお仕事の面で苦言が呈したかったから二人きりでの食事へ誘って下さったのではなかったのですか? ――私、ちゃんと覚悟出来てますので遠慮なさらず仰ってください」
横道にそれかけている上司を、懸命に軌道修正した。
***
部下の荒木羽理にキスの許可を求めたら、思わぬ抵抗を受けてしまった。
(あれ? 荒木さんは僕に好意があるんじゃないの?)
そう思いはした岳斗だったが、逆にそういう身持ちの堅さも荒木羽理と言う女性の魅力に思えて。
(男からの誘いにすぐなびくような尻軽女は信用ならないからね)
岳斗は優しげで人好きのする見た目のお陰か、幼い頃から女性受けが良かった。
だからこそ彼女たちの汚い面も沢山見せ付けられてきたのだ。
外見の清楚な女の子が中身もそうだとは限らないことを、過去の経験から嫌と言うほど思い知っている。
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