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いきなり岳斗からそんな問いを投げ掛けられた羽理は、言葉に詰まって。
ギュウッとお弁当箱を包み込んだままの手に力を込める。
そうして気合いを入れるみたいに大葉が丹精込めて作ってくれた艶やかなニンジングラッセを口に放り込むと、その味をじっくり味わった。
昼休み中に昼食を食べ終われないのは困ると思っていた羽理は、自分の机までの移動時間も込みで考え、話しながらもちょっとずつ箸を進めていて。
甘いグラッセをデザートにするつもりはなかったのだけれど、これでお弁当箱の中身は空っぽだ。凄く残念な気がする。
「実は私、最近体調が良くなくて……」
口の中のモノをごくんと飲み込んでお弁当箱のふたを閉めながら観念したようにそう告げたら、岳斗が「えっ!? 大丈夫なの!?」と身を乗り出してきた。
「あっ。って言っても普段はそんなに問題ないんです……。ただ……」
羽理は距離を詰めてきた岳斗から離れるようにお尻をずりずりっと移動させると、そこで一旦言葉を切って、しばし逡巡する。
「ただ……?」
「その、あ、ある人物と一緒にいると……心臓がバクバクしてキュゥッと締め付けられるみたいに痛くなるんです。不思議なことに相手の方も同じ症状みたいで……。しかもっ! どうやら私たちを蝕むその病気は、病院でも温泉でも治せないらしいのですっ!」
大葉は確か、〝お医者様でも草津の湯でも〟とか何とか言っていた。
「それで、唯一の治療法はショック療法だってその人が言って……。私、病気克服のためになるべくその相手と過ごすようにしてるんですけど……良くなるばかりかどんどん症状が酷くなってる気がして……。ほとほと弱ってます」
大葉とのやり取りを思い出しながら、あえて対象が男性であることを隠しつつ沈痛な面持ちで言ったら、岳斗が大きく吐息を落としたのが分かった。
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