16.その女性(ひと)は誰ですか?

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 未読のままでの放置だから既読スルーよりはマシかも知れないけれど、それすらまるで「はい、お察しの通り何かありました!」と言っているようで落ち着かない。  メッセージアプリの画面を開いたまま(わーん、マズイよ、どうしよう!)と思っていた矢先、ブーッブーッと手の中のスマートフォンが震えて、着信を知らせてくる。  発信者通知には『裸男』と表示されていて。  羽理(うり)は心の中で声にならない悲鳴を上げた。 「あ、あの……倍相(ばいしょう)課長、すみません。電話が掛かってきたので……」  一応岳斗(がくと)に断ってベンチを立つと、少し離れた場所で通話ボタンをタップする。 「……もしもし?」  言いながら恐る恐る耳に当てた携帯から、 『今頃やっとメッセージを確認したか』  少し音質の悪い音声で、不機嫌そうな大葉(たいよう)の声が聞こえてきた。  恐らく何かの作業をしながら、ハンズフリー通話をしているんだろう。  そのお陰で変に胸がざわつかずに済んで、ホッと胸を撫で下ろした羽理だ。 『昼休みになっても全然既読になんねぇから、帰り、気になって高速使っちまったじゃねぇか』  恨みがましい文言が続くのを聞いて、「えっ? 今日のご出張は片道二〇キロ圏内の近場でしたよね? 三〇キロ以下の場所への移動での高速代は、経費では落ちませんよ?」と、つい経理の立場でお仕事モードになってしまった羽理だ。  下道(したみち)を使っても比較的交通量の少ない農道がメインの経路。それほど時間の短縮にはならないだろうに、何でわざわざ高速を使いましたかね!?と思った羽理に、『そんな事は(こたぁ)言われなくても分かっとるわ。お前が心配させるせいで自腹切っちまっただろ?って嫌味を言ったつもりだったんだが……通じなかったか。この鈍感娘めっ』と叱られてしまった。
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