16.その女性(ひと)は誰ですか?

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 そんな大葉(たいよう)から、『一分一秒でも早く帰社して、今朝の挙動不審な態度とメッセの未読スルーについて、理由を問い詰めるつもりだから』と言外に含められた気がして、羽理(うり)は恐怖にすくみ上がる。  それを裏付けるように、もう帰社していてちょうど今し方駐車場に車を停めたばかりだと付け加えてきた大葉(たいよう)から、『シャワーと着替えを済ませたら内線で呼び出すから。呼ばれたらすぐ俺の部屋へ来るように。――分かりね? 荒木(あらき)羽理(うり)』と、で念押しされて。  説明出来ないことを目一杯やらかしている自覚のある羽理は、思わず「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。  その様子に何か察したんだろう。  大葉(たいよう)から、『ま、やましいことがないならそんなに(おび)えることはないがな?』と、吐息混じりの不敵な言葉を投げ掛けられた。 ***  羽理(うり)が電話を終えてベンチの方へ戻ると、岳斗(がくと)も弁当を食べ終えていた。 「電話、終わった?」  聞かれて「はい」と答えたら怪訝(けげん)そうに下から顔を見上げられる。 「荒木(あらき)さん、何か顔色悪いけど平気?」  ベンチそばに立ったままの羽理の顔を座った状態で下からヒョコッと覗き込んできた岳斗に、羽理は「だっ、大丈夫です」と、全くもってそうは見えない態度で言ってしまって。 「心配事があるならいつでも相談に乗るからね?」  立ち上がった岳斗に、ふわりと頭を撫でられた。 「有難うございます」  岳斗にはこんな風に不意打ちで触れられても、さっきみたいに変な下心を感じさせられなければ全然平気だ。  だけど――。
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