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別に実家が農家とか……そう言うわけではないのだけれど、農業とは切っても切り離せない家業を営む、母方の祖父や伯父の背中を見て育った結果、大葉は何となくそちら方面に興味を持ってしまったのだ。
きっと、子供のいない伯父が姪っ子・甥っ子にあたる大葉たち三姉妹弟を、まるで我が子のように可愛がってくれたのも影響しているんだろう。
そもそもこの、〝大葉〟と書いて〝たいよう〟と読ませる無茶振りな名前も、母方の伯父の命名だ。
だからだろうか。〝ウリ〟なんて変わった響きを持つ荒木羽理に惹かれたのは。
***
(さて……)
大葉は、あえて仕事中は頭から追い出していた携帯電話を作業服の胸ポケットから取り出すと、メッセージアプリを呼び出して、一度だけ深呼吸をする。
そんな感じ――。意を決して羽理とのメッセージ画面を開いてみれば、
(まだ未読とか。……マジか)
昼休みはとっくに過ぎて、そろそろ午後の就業開始時刻だというのに。
返信はおろか、朝送ったメッセージすら未読のままになっている事実に、心底ガッカリした大葉だ。
だが、意気消沈して画面を閉じようとした矢先、くだんのメッセージがパッと既読になって――。
そのことに、大葉は思わず「おっ!?」と声を上げてしまった。
幸い駐車場には大葉以外の人影はなかったのだが、ちょっぴり恥ずかしくてついキョロキョロと辺りを見回して。誰にもその声を聞かれていなかったかを確認せずにはいられない。
大葉は荷台に載せ帰ってきた〝農家からのお土産品〟を整理をしながら、さもついでという体。
Bluetooth接続のハンズフリーイヤホンマイクを耳に付けると、電話帳から〝猫娘〟を呼び出して通話ボタンをタップした。
***
荒木羽理が倍相岳斗とともに会社へ戻ってくると、受付にとても綺麗な女性が立っているのが目に入った。
肩に付くか付かないかの長さに切りそろえられたオリーブグレージュ色の前下がりボブは、左側だけ耳にかけられていて、耳たぶを飾るシンプルなチェーンピアスがキラキラと光を跳ね返している。
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