16.その女性(ひと)は誰ですか?

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 白の七分袖(しちぶそで)ハイネックニットに、ブルーデニムのジーンズを合わせて、ベージュのロングジレを羽織った綺麗系お姉さんコーデのその人は、身長一六五センチくらいだろうか。  キャメル色のピンヒールを卒なく履きこなして背筋をピンと伸ばしているからか、実際よりも幾分背が高そうに見えて。 (目鼻立ちのキリッとした、綺麗なお姉様だぁー)  凛とした空気をまとうその人は、三十代半ばくらいかな?と目星をつけた羽理(うり)だ。  仕事がバリバリ出来そうな彼女の雰囲気に、自然と憧れの吐息がこぼれた。 *** 「だから……分かんない人ねぇ。屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)を呼び出して?って言ってるだけじゃない。一羽(いちば)柚子(ゆず)が来たって伝えてくれたらマッハで飛んで来るはずよ?」  美人さんだなぁ~と思いはしたものの、自分とは接点もなさそうだし……とそのまま通り過ぎようとした羽理(うり)だったのだけれど――。  受付嬢へ向けて発せられたセリフのなかに、不意に大葉(たいよう)の名前が出てきて、我知らずドクン!と心臓が反応してしまった。 (え? ……部長の名前を聞いただけで不整脈?)  今まではそんなことなかったのに、何だか胸がざわついて落ち着かない。 「荒木(あらき)さん?」  どうやら無意識に立ち止まっていたらしく、横を歩いていた岳斗(がくと)に数歩先から怪訝(けげん)そうな視線を向けられて。  羽理は慌てて「あ、すみませんっ」と岳斗に追いついたのだけれど。 「バカッ。お前何やってんだよ!」  乗り込んだエレベーターの扉が閉まる直前、隙間から、大葉(たいよう)がそんな言葉とともに慌てたように駆けてくる姿と、「!」という嬉しそうな女性の声が聞こえてきて。  羽理は扉が閉まり切るまでの数秒間、そんな二人から目が離せなかった。 「へぇ~。あの気の強そうな綺麗な人、屋久蓑(やくみの)部長の知り合いだったんだねぇー」  立ち尽くしたまま、身動きが取れなくなっていた羽理の横からスッと手が伸びてきて、操作パネルの【4】をポンッと押しながら、岳斗がどこか感心したようにポツンとつぶやいた。
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