16.その女性(ひと)は誰ですか?

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 自分の行動がおかし過ぎて、羽理(うり)はそれもイヤだったのだけれど。  ずっと、上で、羽理のことを申し訳なさそうに呼び出してくると思っていた大葉(たいよう)が、呼び出し自体〝中止〟だなんて有り得ないことを言ってくるから。  羽理はモヤモヤした気持ちを抱えつつも、それに一言『分かりました』と打ち返した。  だが素っ気ない印象を与えるはずだった六文字は、折れ耳猫(スコティッシュフォールド)が嬉し気に頭を囲むように腕全体で(まる)を形作っているコミカルなイラストのスタンプにされて。「あ、違う!」と思った時には、指が自然な流れ。送信ボタンをトトッとタップしていて、そのまま送信してしまっていた。  正直、そんな可愛らしいスタンプを送るような気分ではなかったので、すぐさま送信取り消しをしようと思ったのだけれど、送るなり既読になってしまってすごすごと諦めた羽理だ。 (……もっと素っ気なく「りょ」とか送ってやればよかった!)  約束を破るなんて最低ですよ!?と言う気持ちを返信に込めたかったのに。  結局、こんな些細(ささい)なことの積み重ねで、大葉(たいよう)にとって自分は軽い存在になっていくんだろう。  小さく吐息を落としながらそこまで考えて、羽理はハッとする。  唯一付き合ったことがある元カレにですら、そんな面倒くさいこと思ったりしなかったのに。 (私、大葉(たいよう)に甘やかされ過ぎてワガママになってる……?)  そう気が付いた途端、更に気持ちが沈んで……。こんなことではいけないと思うのに、モヤモヤが消せない自分に物凄く落ち込んだ。 ***  溜め息を落としては仕事が一向に(はかど)らない様子の羽理(うり)を、さすがにおかしいと思ったんだろう。
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