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仁子にとって、羽理との会話の当事者が倍相岳斗ならば、その彼に呼び出された仁子が羽理との話のズレを岳斗の方に問いただして正しく理解するのも時間の問題だろう。
そう思いながら羽理が見詰める視線の先。
仁子が岳斗に伴われて小会議室に入って行くのが見えた。
羽理は二人の背中を小さく会釈をして見送ってから、フロア内に残った他の面々に「お先に失礼します」と声を掛けて一人トボトボと財務経理課を後にした。
***
帰宅後何もやる気になれなくてふて寝していた羽理は、十七時過ぎにノロノロと起き出したのだけれど。
ぼんやりした頭のまま、ふと枕そばに置いていたスマートフォンを見ると、仁子からのメッセージがいくつか届いていた。
『調子はどんな? 何かいるものがあったらメッセしてね。届けるから』
と言う文言の後に、小首を傾げて心配そうにする可愛いタヌキイラストのスタンプがくっ付いていて。
それに続くようにして数分後のメッセージで『そういえば課長とのランチ、ちゃんと行けてたみたいだね。じゃあ、羽理との約束を破ったのは結局誰だったの? 何の約束を破られたの?』と打ち込まれていた。
それとは別に倍相岳斗からの着信が一件。
留守番電話サービスに残された録音を聞いてみると、体調うかがいだったらしい。
羽理は小さく吐息を落とすと、通知を全て見終わったスマートフォンをポイッとベッドに放り投げた。
「大葉の……バカ……」
未だに何の連絡もないと言うことは、大葉は羽理が早退したことにですら、まだ気が付いていないのかも知れない。
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