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「大、葉……?」
「羽理!?」
柚子と呼ばれた女性の後ろで泣き腫らした目をして立ち尽くしたままの羽理を見るなり、大葉から名前を呼ばれて。
彼の声に羽理がビクッと身体を震わせたのを合図にしたように、大葉が、慌てた様子で裸の羽理にバサリとバスタオルを被せてきた。
「……お前、何でこんな時間に風呂入ってんだよ! まだ会社にいる時間のはずだろ!?」
タオル越し、まるで折悪しくワープしてきたことを責めるみたいにそう問い掛けられた羽理は、柚子と呼ばれた女性との時間を邪魔するなと怒られたように感じて、胸がズキンッと痛んだ。
(どうして約束を破られた私がそんな風に言われなきゃいけないの?)
そう思ったと同時、堰を切ったように言葉が溢れてきてしまう。
「大葉こそ! ……就業時間中に女性を家へ連れ込んで……一体何してるの!?」
悔しさからなのか、悲しさからなのかわけが分からない涙をポロポロとこぼしながら眼前の大葉をキッ!と睨み付けたら、彼が驚いた顔をして。
そこでやっと、現状のマズさに思い至ったみたいに慌てた様子で言い返してくる。
「ば、バカッ。お前、何か勘違いしてるようだが……こいつは俺のすぐ上の姉でっ、……お前が考えているようなやましい間柄じゃねぇ!」
まくし立てるように大葉から発された言葉に〝姉〟という文言を拾って、羽理は呆然とつぶやいた。
「お姉……さん?」
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