16.その女性(ひと)は誰ですか?

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 羽理(うり)は携帯の電源を切った覚えはなかったけれど、電池残量を確認したわけではない。  今日は大葉(たいよう)からの連絡を気にして何度も何度もスマートフォンを眺めてしまっていたから、もしかしたらそのせいで充電が尽きてしまったのかも知れない。  それに、よもや電池があったとして……タイミング的に電話がかかっていた時刻はシャワー中で出られなかっただろう。 「そんなことしたらお姉さんは……」 「社で騒がれんのが嫌だったからとりあえず連れて帰っただけだ。……そこは飯でも食わせといて適当に放置で構わんだろ」  大葉(たいよう)にとっては、羽理の機嫌(きげん)(うかが)いの方がよっぽど大事なのだから。  そのために柚子(ゆず)が風呂に入ってすぐ夕飯の支度(したく)をすべくキッチンに立っていた大葉(たいよう)だ。  柚子は、ご飯さえ出しておけば大人しく待つタイプだと長い付き合いで知っている。 「電話繋がんねぇし、怒ってんのかな?と思って内心すげぇ焦った。けど――」  本当はすぐにでも会社へ乗り込んで「荒木(あらき)さん、ちょっと」とかやりたかったぐらいだ。  だが、早退した身でノコノコ社屋へ戻って、羽理を部長室に呼び出せるほど、大葉(たいよう)厚顔無恥(こうがんむち)になり切れなかったのだ。 「あの。ごめんなさい。……実は私も今日は早退してて」  多分社外で待ち伏せされていても会うことは叶わなかったはずだ。  申し訳なさそうに自分を見上げてくる羽理を見て、大葉(たいよう)は 「体調悪いのかっ!?」  思わずポタポタと髪の毛から水滴を(したた)らせたままの羽理の肩を掴んだのだけれど。  羽理の身体が冷たく冷えているのが分かって自分のバカさ加減が心底嫌になった。 「あ、あの……別にそう言うわけでは」  羽理は体調不良こそ否定したけれど、このままでは羽理に風邪をひかせてしまう。 「とりあえず着替え持ってくるから身体拭いて待ってろ。話はお前の身支度が整ってからゆっくりしよう。――な?」
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