17.ちぐはぐな二人

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 そうして「いや、やっぱいい。全部ひっくるめて後で話すわ」と曖昧に言葉を濁してしまう。  羽理(うり)の顔をまともに見られない状況で告げるのは何だか嫌だと思ったからだ。  どうせなら手とか握って……もっともっと大葉(じぶん)と一緒だと〝胸が苦しい〟と自覚させてから理由を思い知らせてやりたくなった。 「き、気になるじゃないですかっ」  ソワソワと落ち着かない様子で瞳を揺らせる羽理を横目に、「だったら大いに気にしとけ」とクスクス笑ったら、羽理が「意地悪っ!」と唇を突き出すから。 「ホント可愛いな、お前」  今までは口に出さなかった言葉を、あえて羽理にも聞こえるように伝えた。さっき柚子(ゆず)に叱られたことをふと思い出したからだ。 (思ってるだけじゃダメみてぇだからな)  羽理は恋愛が絡むとめちゃくちゃ鈍感だ。  仕事関係なら一言えば十知るような優秀な女性なのに、自身の色恋ごととなると同一人物とは思えない察し力の低さを発揮する。 「か、かわっ!?」  そのくせこうやってちゃんと気持ちを伝えると、びっくりするぐらい動転してオロオロするから。  それがたまらなく〝愛しい〟と思ってしまった大葉(たいよう)だ。 (これからはちゃんと伝えていくか……)  過去の恋愛では大葉(たいよう)が黙っていても相手が一方的に〝好き〟だの〝愛してる〟だの(ささや)いてくれた。  だけど、今回の恋では――。  それは大葉(たいよう)の役目だと思った。 ***  倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)から同僚の荒木(あらき)羽理(うり)の、恋心に起因する動悸について口止めされた法忍(ほうにん)仁子(じんこ)は正直ムカムカしていた。
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