18.飛ばしすぎ?

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 大葉(たいよう)は折角の合鍵を奪われないようサッと元通り。肩がけにしたボディーバッグに仕舞ってから、 「ほら。今日だってこれがあったからすぐお前ん()の鍵が開いたわけだろ? それに……俺たち、その……けっ、結婚の約束もした、わけ……だし? 今更返す必要もねぇだろ? あ……、も、もちろん! 俺の部屋のキーロックの暗証番号もちゃんと教えてやるから! ふ、不公平じゃないぞ?」  としどろもどろに言い募った。  そうしながら、前に身一つで羽理(うり)のアパートから飛ばされた時、キーレスのマンションで良かったとつくづく思ったのを思い出した大葉(たいよう)だ。 (あん時、もし普通にここみたく鍵がなきゃ開かないタイプのドアだったら俺……あの不審者ルックのまま管理会社の人間を呼ばなきゃいけなかったんだよな?)  今更のようにそんなことに気が付いてゾワッとした。  何しろあの日の自分の格好は、羽理チョイスの無地Tシャツに下着(トランクス)をむき出しのまま履いて……ズボンは無し。足元は裸足にサンダルを突っかけただけと言う余りにもラフすぎる格好で。  羽理は折角買ってきたんだし!……と言うノリで靴下も履いて、レインポンチョも羽織れば完璧みたいに勧めてきたけれど、それでは変質者まっしぐらだと思って(つつし)んで辞退申し上げたのだ。 「確かに……大葉(たいよう)合鍵(それ)を持っててくれたお陰で今、助けられましたし……、今後のことを考えてもそうして頂いた方が良さそう……です、ね。……分かりました。その鍵はそのまま大葉(たいよう)にお預けしますので……管理の方、よろしくお願いします」  羽理がちょっとだけ考えてからそう答えてくれてホッとした大葉(たいよう)だ。 「じゃあ、すぐ戻ってくるから。ちゃんと戸締りして待つように」  言って、コインパーキングまでの道のりを小走りで戻った大葉(たいよう)だったのだけれど。  途中で一台の車とすれ違ったことに気付けなかったのは、痛恨の極みだったかも知れない――。
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