19.僕じゃダメかな?

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「うん、実は以前荒木(あらき)さんの車がお店の前に停まってるの、見掛けたことがあるんだ」 「わわっ。ホントですかっ。な、何か恥ずかしいんですけど……!」 「別に恥ずかしがらなくても。……ここだけの話、実は僕も結構甘いものが好きでね、あそこは良く利用するんだ。今日も自分が好きだからってチーズケーキとイチゴのショートケーキにしちゃったんだけど……平気? 嫌いじゃない?」  やっぱり無難にチョコとかの方が良かったかな……と続けられた羽理(うり)は、驚いてしまった。 「奇遇です! 私もあそこのお店ではその二種類が特に好きなんですよ。きゃー。倍相(ばいしょう)課長と好きなケーキが一緒とか……何か照れちゃいますね」  羽理がヘヘッと笑ったら、岳斗が瞳を見開いた。 「……そう言うトコ……。ね、荒木さん、キミは魔性の女だって言われたりしない?」 「え?」  突然岳斗(がくと)からわけの分からないことを言われた羽理は、目を白黒させてソワソワと岳斗を見上げた。 「ねぇ、、僕じゃ……ダメかな?」  目が合うなり、岳斗から何故か〝名前呼び〟をされて、ひどく切ない顔をされてしまうから。 「ダメって……な、にが……です、か?」  辛うじてそう返しながらも、羽理はますます混乱するばかり。 「ほら、羽理ちゃん、恋人はいないって言ってたでしょう? だから……えっと……僕じゃ恋人候補になれないかなって……そういう……意味……なんだけど」  岳斗からの思わぬ告白に、羽理は驚きの余りヒュッと息を呑んだ。 ***  両手に沢山の荷物を持って小走りに羽理(うり)のアパートまで戻ってきた屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)は、建物脇の道路に路上駐車された見慣れない車を見て何となく胸騒ぎを覚えた。  急いでエレベーターホールにたどり着いて、操作パネルで昇りボタンを押せば、さっき自分が下まで降りた時に一階まで降ろしたはずの箱が、羽理のいる七階に上がっていた。
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