19.僕じゃダメかな?

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 七階フロアにあるのは、もちろん羽理(うり)の部屋だけではない。  大葉(たいよう)が荷物を取りに行っている間に、他の住人が帰って来たという可能性だってもちろんある。  だけど――。  大葉(たいよう)は落ち着かない気持ちをぶつけるみたいに何度も何度も操作パネルを連打せずにはいられなかった。 (くそっ。何でこんな時間かかんだよ!)  だが、階段を走って上がるよりは、もどかしくてもここでエレベーターが来るのを待った方が断然早い。  そう分かってはいても、ザワザワとした不安な気持ちに突き動かされるように、大葉(たいよう)は気持ちばかりが()いてしまうのだ。  やっとの思いでエレベーターに乗って七階へたどり着いて――。  数メートル先の羽理の部屋を見遣れば、ドアがほんの少し開いていて、扉に挟まるようにして立つスーツ姿の男が見えた。  あろうことがその男が、「僕じゃ恋人候補になれないかなって……そういう……意味……なんだけど」とか羽理に迫っている様子ではないか。  大葉(たいよう)は思わず手にしていた荷物をその場へ全部放り出すと、中途半端に開いていたドアをガッと開いて。 「生憎(あいにく)だが、こいつはもう俺んだから!」  羽理に告白している人物が誰なのかも確認しないままに二人の間へ割り込むように分け入ると、大葉(たいよう)は羽理をグイッと腕の中に閉じ込めてそう宣言していた。 「ひゃっ、(たい)(よう)っ!?」 「屋久蓑(やくみの)部長っ!?」  羽理がオロオロと大葉(たいよう)の名を呼んだのと、眼前の男――倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)大葉(たいよう)の名を呼んだのとがほぼ同時で。  大葉(たいよう)はそんな二人を見詰めて、「何で倍相(ばいしょう)課長が羽理の家にいるんだ!」と叫ばずにはいられなかった。 *** 「と、とりあえず、どうぞ」  結局立ち話も何だし、という妙な流れになって。  三人して羽理(うり)の部屋のリビング。例の猫耳付きテーブルを囲んでひざを突き合わせている。
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