3.半裸・ノーブラ会議

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「し、失礼しま、す?」  ワンルームとは言え、玄関からリビングが丸見えは女性向け物件として良くないと考えられたんだろう。  羽理(うり)の住んでいるアパートは、リビングとキッチンとの境目に曇りガラスのはまった引き戸が付いていた。  その扉前に立って恐る恐る中へ声を掛けたら、「ああ、入れ」とやけに偉そうな男の声がして。 (ちょっと待って? 考えてみたらここ、私の家じゃなかったでしたっけ?)  羽理は、(何でゲストの貴方が我が家の主導権を握ってらっしゃいますかね?)と思ってしまった。  でも、その言葉遣いからして、中にいる人物が常日頃からそういう口調に慣れた立ち位置にいる人間なのだと再確認出来て。 (やっぱり見間違いなんかじゃなく……あのご立派(りっ)じゃなくて……裸の人は屋久蓑(やくみの)部長だったってことだよね?)  そう思い至った途端、羽理は別に会社でもないのに何だか緊張してきてしまった、――のだが。  ふと自分の格好を(かえり)みて、(いま私が気にするべきはそこじゃありませんでしたね!?)と思い直す。  とりあえず、緊張のあまり冷たくなってしまった手でそろぉーっと引き戸を開けてみたら、物凄く不機嫌な顔をした半裸の男性が、猫の顔の形をした天板が載ったローテーブルに頬杖(ほおづえ)をついて、こちらを睨み付けていた。 「ひっ」  思わず言葉にならない悲鳴が漏れてしまった羽理だったのだけれど。  すぐに『いやいやいや!』と気持ちを切り替える。 「な、んで……屋久蓑(やくみの)部長がうちにいらっしゃるんですか?」  しかも真っ裸で――。  心の底からそう付け加えたかったけれど、ジロリと睨み上げられた羽理は、何となくそれは指摘してはいけない気がしてしまった。
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