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羽理は春風のような岳斗の笑顔と、北風のようにムスッと不機嫌そうな大葉の顔とを交互に見比べて。
そこでふと思い出したように「あ……」とつぶやくと、
「そう言えば倍相課長! あの受付けで見た綺麗な女性! 大……じゃなくて……えっと……や、屋久蓑部長のお姉さんだったんです! 課長が心配なさったような〝カノジョさん〟とかじゃありませんでした!」
そう打ち明けたのだけれど。
それを聞いた大葉が、一瞬だけ岳斗に鋭い視線を投げ掛けてから何か言おうとして。
でもあえて気持ちを切り替えるみたいに視線を羽理へ戻すと、不機嫌そうに「おい、羽理。俺の呼び方」と異議申し立てをしてきた。
羽理は大葉の態度に違和感を覚えたのだけれど、すぐにそんな大葉のセリフに重ねるようにして、
「わざわざ言い直さなくても大丈夫ですよ?」
クスッと笑った岳斗から「けど……会社では気を付けてくださいね?」と指摘されて、小さな引っ掛かりがポンッと吹っ飛んで行ってしまう。
「あ、はい! ……あ、有難う、ござい、ます……?」
今まで散々岳斗の前でも無意識に〝大葉〟呼びをしていた羽理だったけれど、改めてその呼び方を肯定されると何だか照れてしまうではないか。
お礼を言うのも違うよね?と思いながらも、つい「有難う」を言ってしまった。
「何で礼……」
わざわざ掘り下げなくてもいいのに、すかさず大葉が突っ込みを入れてきて、ついでのように「ところで倍相……」と、こちらはとうとう敬称も役職名もなしで呼び掛ける。
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