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大葉はそんな岳斗をじっと見据えると、
「お前、柚子が俺の姉だって知ってたはずだよな? なのに……何でわざわざ偽の情報を流して羽理を不安にさせた?」
岳斗は大葉がまだ財務経理課長をしていた頃、柚子が土恵商事に姉として顔を出したところに居合わせたことがある。
今更しらばっくれるのはおかしいだろ?と言外に仄めかせつつ、さっき羽理から聞いた言葉でそこが引っかかったのだと大葉が言えば、「何だ、そんなことでしたか」と岳斗が何でもない風に吐息を落とした。
「分かりませんか? 僕が吹き込んだデマでお二人の仲が拗れて、あわよくば別れてしまえばいいのに、と思ったからですよ」
「そんなくだらない理由で……お前は羽理を傷付けたのか?」
「うーん、僕としては羽理ちゃんを傷付ける気はなかったんですけど……。まぁ結果的にはそうなっちゃいましたね」
だからこそお詫びの意味も込めてケーキを買ってきたのだと――。
岳斗が悪びれた様子もなくそんなセリフを付け加えた途端、大葉は岳斗の胸ぐらを掴んでいた。
そのままグイッと腕を引くようにして岳斗の方へ身を乗り出すと、
「どんな理由があろーとアイツを傷付けて平気なやつに、羽理は渡さねぇよ。――しっかり覚えとけ、サイテー野郎」
岳斗の耳元でそう牽制して、スッと離れた。
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