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(な、何なんだっ、いきなり!)
口裏を合わせてくれたのは有難いが、妙に親密な空気を醸し出されて――。
さっきまで羽理を挟んで火花バチバチだったはずなのに何事だ?と思わずにはいられない。
(俺が羽理にヤツの悪事をバラさなかったからか?)
ただ単に、大葉としては羽理が敬愛している上司さまのイメージを崩すのは忍びないと思っただけだったのだが。
信頼している倍相岳斗が、まさか自分を陥れるような嘘をついただなんて知ったら、羽理が傷付く。
それだけは何としても避けたかった。
(俺は羽理が悲しい思いをすんのは嫌なんだよ)
本当にただそれだけだったのだが――。
案外大葉は、目の前の男から弱みを握られたとでも思われて絶対服従の権利を得てしまったのかも知れない。
***
倍相岳斗は屋久蓑大葉が荒木羽理のために本気で怒る姿を見た瞬間、電撃が走るような衝撃を覚えた。
今まで自分に対してこんな風にあからさまに牙を剥いてきた相手はいなかったし、ましてやそれが全て愛しい彼女のためとか。
(かっこよすぎでしょう、屋久蓑大葉!)
今でも大葉が耳元で囁いてきたバリトンボイスが岳斗の脳内を侵食している。
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