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「羽理」
大葉が、羽理の上に覆い被さるみたいに四つん這いになって、羽理の名を呼んでいる。
それでも羽理は大葉の方を見られなくて。
「な、頼むからこっち向けよ」
照れくさいのはお互い様だと付け加えながら、大葉がそんなことを言ってくるから。
(照れくさいとか絶対嘘だ)
何の根拠もなくそう思った羽理だったけれど、恐る恐る見上げた大葉の表情が、どこかぎこちなくてびっくりしてしまう。
「大葉?」
思わず大葉の頬へ手を伸ばしたら、その手を掴まれて指先にチュッとキスをされてしまった。
「ひゃっ」
咄嗟のことにキュッと手指を縮こまらせた羽理だったけれど。
「大事に……するから」
手を握られたまま真摯な目を向けられた羽理は、(ああ、私、このままこの人としちゃうんだ)と今更のように実感した。
「は、初めてなので……お手柔らかにお願いします。あと……私、その……こんなことになるなんて思ってなかったから、えっと全然、その……色々準備とかしてなくて」
「準備?」
大葉がキョトンとして羽理を見詰めてくるから、「ほ、ほらっ。にゅ、入籍とか……そう言うのを済ませてからでないと、その……あ、赤ちゃんとか……出来るようなことしたらダメかなって思って……。なのに私、そういうのの用意が全然なくて」
この期に及んで学生の頃の彼氏にフラれたのと同じ理由を述べた上で「え、縁がなかったから……」と付け加えれば、
「バーカ。心配しなくても俺がしっかり考えてる。でなきゃ最初から手なんか出そうとするかよ」
言うなり大葉の顔が近付いて来て、羽理はギュッと目をつぶった。
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