22.朝チュンではないけれど

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 羽理(うり)はちょっと考えて「はい」と答えていた。  どうせ倍相(ばいしょう)課長にバレてしまったのだ。  仁子(じんこ)にだけ大葉(たいよう)とのことを隠しておくのはフェアじゃない――。 ***  羽理(うり)からの承諾を得た大葉(たいよう)が、携帯を充電ケーブルから抜いて「もしもし?」と応じれば、当然というべきか。  電話先で息を呑む気配がした。 『あ、あれ? 私……羽理の携帯に掛けた、はず……だよね? えっ。もしかして間違え電話、しちゃってますか?』  困惑した様子でそう問いかけてくる法忍(ほうにん)仁子(じんこ)に、大葉(たいよう)は「いや、間違ってないよ。キミが掛けたのは荒木(あらき)羽理(うり)さんの携帯で合ってる」と答えたのだけれど。  途端電話先で一瞬だけ黙る気配がしてから、『あの……もしかして……裸男さん?』と問い掛けられた。  自分が〝裸男〟と呼ばれているのは知っていた大葉(たいよう)だけど、「はい、そうです。俺が裸男です」だなんて素直に認められるわけがない。  ふとそこで今は亡き大物コメディアンの『そうです、私が変なおじさんです』というセリフを思い出してしまった大葉(たいよう)は、尚のことうなずくことが出来なくて。  少し考えてから、「キミたちの間で俺がそう呼ばれていることは何となく知ってはいるが……正直俺としては不本意な呼び名だ。すまんが屋久蓑(やくみの)と呼んでくれるか?」と本名を名乗ることにした。  電話に応じながら壁際に寄りかかるようにして座り込んだままの羽理の元へ近付くと、大葉(たいよう)はそっと羽理の腰に手を添えるようにして猫型ローテーブルのすぐそば。  ニャンコ柄座布団の所まで羽理を(いざな)ってゆっくりと座らせたのだけれど。  羽理が着座と同時に「きゃうっ」と悲鳴を上げて眉根をしかめたのにオロオロしていたら、手にしたままのスマートフォンから、法忍(ほうにん)仁子(じんこ)の困惑した声が漏れ聞こえてくる。
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