22.朝チュンではないけれど

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『えっ。ちょっと待って……? 屋久蓑(やくみの)って……もしかして……ぶちょ……っ!? ええええええーっ!? 嘘でしょぉぉぉーっ!?』  大葉(たいよう)のすぐそば。痛みからか涙目で自分を見上げてくる羽理(うり)に、小声で「勝手に名乗ってすまん」と謝ったら「……大丈夫です」と何となく困ったような顔で微笑まれた。 「その……倍相(ばいしょう)課長にもバレちゃいましたし……仁子(じんこ)にもちゃんと伝えなきゃフェアじゃありませんから」  手放しに明かしたいわけではないようだが、どうやらそういうことらしい。 ***  法忍(ほうにん)仁子(じんこ)が落ち着くのを見計らって、大葉(たいよう)羽理(うり)懇意(こんい)にしていることを打ち明けたら、仁子が妙に納得した風に、『ああ、言われてみれば羽理と部長、何か距離が近かったですよねっ♥』とどこか嬉しげに鼻息を荒くした。  そうして続けざま、『いつからですか!?』とか、『どちらから告白した(コクった)んですか!?』とか矢継ぎ早に質問攻めが来て、羽理に携帯を手渡せないまま。  大葉(たいよう)は小さく吐息を落として、「いま悠長にそんなことを話していたら、会社に遅刻するんじゃないのかね?」と上司の顔でするりと(かわ)すことにした。 『あ、あのっ、屋久蓑(やくみの)部長! 時間がないのは分かってるんですが、ちょっとだけ羽理に変わって頂けますか? あの子ってば昨日早退してからそのまま音信不通になっちゃってるんで心配で……』  そこだけは譲れない、と言った調子で畳み掛けられた。  羽理の携帯電話は、羽理が大葉(たいよう)宅の風呂場に飛ばされてきてから長いこと電池切れでダウンしていたから、法忍(ほうにん)仁子の言い分はもっともで。  朝になってやっと繋がったと思ったら、代理が出て本人が応答しないとあっては、彼女が羽理の安否を気遣うのも無理はないと思えた。 「もちろんだ。そもそも羽理の携帯でキミと俺が長々と話していること自体おかしな状況だしな」
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