22.朝チュンではないけれど

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「ほら、冷める前に食え。……食わねぇなら俺が全部食っちまうぞ?」  ツン!とそっぽを向いている羽理(うり)の鼻が、ウサギの鼻先みたいにヒクヒク動いているのを知っていて、大葉(たいよう)がわざと羽理の前に置いたオムライスの皿を自分の方へ引き寄せれば、「ダメ!」と言う声と共に皿の(ふち)をギュッと握られた。  急に動いたからだろうか。一瞬「はぅ」と悲鳴を上げた羽理が痛々しく思えてしまう。  卓上のオムライス、当然羽理の方はとろりとした半熟の卵がチキンライスの上に乗っかっていて、少し焼け過ぎた大葉(たいよう)のものよりかなり見栄えがいい。  ケチャップで、大葉(たいよう)が描いた〝猫っぽいモノ〟がなければもっといい感じだったはずだ。  それら全てが(つぐな)いになるかどうかは定かではないけれど、無理をさせてしまったことへの、せめてもの罪滅ぼしだと思ってくれたら有難い。 「ブタさん……?」 「猫だ!」  猫っぽいものを見詰めながらつぶやいた羽理に、猫だと言い張りつつ「火傷するなよ?」と言い添えて、マグカップに注いだサツマイモのポタージュスープを差し出せば、羽理が視線をケチャップ絵からカップへ移して瞳をまん丸にした。 「わぁー、オムライスだけじゃなくスープまで! この匂いはサツマイモですか? やーん、すっごく美味しそうです!」  すっかり自分が拗ねていたことを忘れてしまったみたいにキラキラと瞳を輝かせる羽理に、大葉(たいよう)は無意識に微笑んだ。
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