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鏡の前で服装チェックを終えたのだろう。
壁伝いにノロノロと帰ってきた羽理は、仕事に行くわけではないのに薄化粧をしていて、家にいる姿とは対照的な綺麗系の服を着こなしていた。
「なぁ、羽理。別にお前は休みなんだし……いつもみたいに猫三昧な家着でもいいんだぞ?」
黒のフィッシュテールスカートに白レースのベルスリーブブラウスを合わせて、寒かったら羽織ると言って、ベージュのゆったり系長袖カーディガンをまで用意している羽理は、どこからどう見ても女子力高い系乙女だ。
あまりの可愛さに、大葉がつい照れ隠しもあって揶揄ったら、羽理がぷぅっと頬を膨らませた。
「けどっ、柚子さんがいらっしゃいます! 大葉のお身内の方相手に、気なんて抜けませんよぅ!」
何だか嫁になることを自覚しているかのような物言いに、大葉はますます照れ臭さが募ってしまう。
それに――。
下手に身綺麗にされると、ライバルが増殖しそうで気が気じゃないのだと察して欲しい。
世の中には、別に巨乳じゃなくても構わないという男だって結構沢山いるのだから。
「バーカ。今更だろ」
羽理は昨夜、柚子にもノーパン&ノーブラにブランケットを被ると言うとんでもない格好を披露しているのだ。
羽理の荷物の上へ乗っけられたひざ掛けにちらりと視線を投げ掛けて、わざとククッと声を出して笑ったら、怒った羽理に「大葉の意地悪!」と胸をトン!と叩かれた。
そうしておいて、急な動きに耐えかねたみたいに「はぅっ」と唸って羽理がうずくまるから。
大葉は(俺はそこまでお前にダメージを負わせる抱き方をしたか!?)とソワソワさせられた。
だが、理由が理由だけに何だか恥ずかしくて、『大丈夫か?』と声を掛けることすら出来なくて。
その代わりと言うか何というか。
「ま、正直お前はどんな格好してても最高に可愛いから心配するな」
罪滅ぼしも兼ねてこぼした本音は、羽理の体調を気遣う言葉よりも遥かに恥ずかしいもので――。
羽理が真っ赤になってうつむいたのを見て、大葉も急に決まりが悪くなってそっぽを向いた。
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