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柚子の腕の中でこちらを見上げてくるキュウリのつぶらな瞳にウッと心臓を撃ち抜かれて。
(いや、ウリちゃん。パパはウリちゃんのことも愛してまちゅよ?)
とか何とか愛犬への後ろめたさが後押しをしてしまう。
結果、ふと気が付けば、自分がいま満身創痍の羽理を腕の中に抱いていることも……。
もっと言えば頭を撫でながら声掛けした愛犬自身も柚子の腕の中だと言うことさえも、すっかり失念して。
「ウリちゃんもいい子にしてて下ちゃいね? パパ、行って来まちゅよ?」
大葉はいつも通り、幼児語でキュウリに語り掛けてしまっていた。
「わぁー、たいちゃん!」
「大葉……?」
二人から同時に呼び掛けられて、そのことにハッと気が付いたけれど後の祭り。
「お、俺がっ。可愛い愛犬にどんな感じで声掛けようと……二人には関係ねぇだろっ」
照れ隠しでしどろもどろ。つっけんどんに言い放ったら、「まぁ……百歩譲って私は構わないとしても……その呼び方。羽理ちゃんは照れちゃうだろうし関係ないとは言い切れないわよねぇ?」と、柚子が大葉の腕の中に閉じ込められたままの羽理を見詰めてニヤリとする。
その言葉に、大葉は慌てて腕の力を緩めると、落ち着かない気持ちで羽理を見下ろした。
「あ、あのな……羽理っ。こ、これは……お前と出会う前からずっと、な呼び方なわけで……その……今更変えろと言われても……えっと一朝一夕には無理と言うか……」
「……はい。……大葉の中でキュウリちゃんは……ウリちゃん、で定着してる……ってこと……です、よね……?」
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