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(……昨日の倍相の様子、何かおかしかったよな)
前半はいつも通りだったが、羽理を傷付けたことを大葉に責められてからは、ガラリと態度が一変したように感じたのは気のせいではないだろう。
大葉さん、と倍相から呼び掛けられたのを思い出した大葉は、何だかよく分からない寒気にゾクリと身体を震わせた。
そこでポーンと小気味よい音を立ててエレベーターが一階に着いて。
幾名かの社員たちがパラパラと箱から降りてきて、大葉に気が付いて「おはようございます」と頭を下げて通る。
大葉は背中を這い上がる悪寒を振り払うように、彼らに「おはよう」と返しながら空になった箱へ乗り込んだ。
時間的なモノだろうか。
降りてくる人間はちらほらいたけれど、大葉のように上に昇る人間はいなくて。
エレベーターの中で一人、大葉は壁に縋るようにして物思いにふける。
そういえば――。
(倍相は俺のこの社での立ち位置を知ってるんだっけか……)
公言はしていないが、あえて隠しているわけでもない自分の立場をふと思って、大葉は小さく吐息を落とした。
(ま、あんま大っぴらにしたい内容じゃねぇけどな)
その絡みで今から社長室へ出向かねばならないわけだが、まぁ誠意を持って対応すればきっと何とかなるだろう。
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