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倍相には羽理と付き合ってることと……ゆくゆくは一緒に暮らす宣言しかしていなかったな、と思った大葉は、そのままの流れでゆっくり財務経理課長の席へ視線を転じた。
そうしてバッチリ倍相と目が合ってしまって心の中で思わず『ヒッ』と悲鳴を上げた。
(何だってあんなキラキラした笑顔で俺に微笑みかけてくるんだ、倍相岳斗!)
元々自分とは真逆。
やたらと爽やかな笑顔が似合う男ではあったのだけれど。
大葉は自分でもハッキリ分かるぐらい引きつった顔で黙礼だけすると、そそくさと総務部長室にこもった。
「ちょっと待て、ちょっと待て……」
つぶやいて、今閉めたばかりの扉に縋ってズルズルとその場にしゃがみ込んだ大葉の脳内に、昨夜どこか拗ねたような口ぶりで羽理が言った、『何だかモヤッとします。倍相課長ってば、まるで大葉に恋しちゃってるみたいなんですもん』という言葉が蘇ってきて、大葉は「……んなわけねぇだろ!」と、誰にともなく思わず吐き捨た。
――と、突然背後の扉がコンコンとノックされて。
大葉は「ふぁっ!?」と思わず声に出して小さく悲鳴を上げてしまう。
それが妙に恥ずかしくて、誤魔化すようにサッと立ち上がると、足音を立てないよう気遣いながら足早にデスクの方へ向かった。
そうして一度気持ちを落ち着けるように深呼吸をすると、努めて平常心を装って、「入れ」と許可をしたのだけれど。
「失礼します」
そう言って入って来た相手を見て、大葉は思わず「ひっ!」と悲鳴を上げて立ち上がった。
「屋久蓑部長、おはようございます」
にこやかな笑顔でこちらへ近付いてくる倍相岳斗に気圧されたみたいに無意識に二、三歩後ずさったら、背後の壁に椅子の背もたれが当たって、座面が膝裏を直撃する。
結果、膝カックンした大葉は、椅子に尻餅をつくみたいにドサッと腰かけてしまった。
いくら何でも、部下相手に何とも情けない状態ではないか。
「大丈夫ですか?」
駆け寄ってきた倍相にストップ!と心の中で叫びながら、大葉は片手を上げて彼の動きを制すると、「大丈夫だ」と言ったのだけれど。
(声、震えてなかったよな!?)
とか何とか、頭の中はてんやわんやだったりする。
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