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「――何か用か?」
気を取り直すように一度咳払いをして問いかけると、倍相が居住まいを正したのが分かった。
「大葉さん、昨夜はあのあと羽理ちゃ……、じゃなくて……荒木さんとどうなったんですか?」
真剣な目で問われた大葉は、心の中で抗議せずにはいられない。
(こら倍相! 何で羽理は〝荒木さん〟って言い直したのに、俺のことは〝屋久蓑部長〟って訂正しないんだ!)
これではまるで、羽理のアノ推測が正しいみたいで恐ろしいではないか。
このまま倍相の目を見つめ続けていてはいけない気がして、大葉はそろそろと瞳を逸らせたのだけれど。
(えっと……こいつ、今、俺に何を質問してきたんだっけ!?)
別の衝撃が大きすぎて、問い掛けられた質問がぶっ飛んでしまった。
***
屋久蓑大葉に視線を逸らされた倍相岳斗は、どこか落ち着かない様子の屋久蓑部長に、(ああ、これは……)と思う。
真面目社員で、滅多なことでは休んだりしない荒木羽理が、もう一日休ませて欲しいと連絡をしてきたのはつまりはそういうことなのだ。
昨夜会った時、彼女はすっかり元気を取り戻していたように見えたのに、自分が帰った後で、出社できないくらいの何かがあったと思うのが妥当だろう。
加えて、朝からやたらと法忍仁子の様子もおかしいし、皆まで語られなくてもある程度は察してしまった岳斗である。
(何かモヤモヤするな……)
それはきっと、お気に入りだった荒木羽理を手籠めにされたことに対するざわつきなのだと納得しようとした岳斗だったのだけれど、どうも違う気もして。
それを払拭するみたいに話題の矛先を変えることにした。
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